波止場町無番地。
そのアドレスは、今さらながら神戸が港町であることを感じさせる。
番地がない場所、というのは、どこか不思議の国への入り口の
ような気配がするではないか。
とはいうものの、その無番地の場所は、オフィスからものの10分圏内にあり、
その初めての場所を訪れたのは、すでに2週間以上も前のことなのだ。
けれども、記憶の中の何かが、どうしても記しておくべしと、言っているようで
こうしてしたためておきたいと思う。
そもそも、仲良しのバンドの3度目のライヴのご案内をいただいたのが
始まり。
さらに、その前夜、そのバンドつながりのご近所のお店の前で
偶然にも、お店のマダムと遭遇したのがご縁の不思議さだ。
明日のチケットあるんだけど、明日どうしても行けなくなってしまって…。
という言葉に誘われて、春の香りがいっぱいのおいしい一品とお酒を
いつのまにかいただいて、ゴキゲンになってしまっていたのだけれど、
James BluesLandでのライヴチケットは、こんな必然的偶然さで
私の手の中に舞い込んで来た。
「金子マリ Presents7th Element Will」
チケットには、そう書かれていた。
金子マリ。どこかで聞いたことがある名前であり、
つまりメジャー系の女性シンガーらしい、と認識するワタクシ。
仲良しのバンド、バーバリアン(野蛮人というネーミングだ)は
このバンドの前座なのである。
そしてGWの谷間のその夜、初めて訪れた無番地のライヴハウスは
いろんな意味で不思議な世界そのものだった。
うらぶれた港町のはずれの、何年も時が止まったかのようなバー、
そんな風に錯覚するくらいに。
何者なのか分からないような方々が、色も形も異なるさまざまなソファに
ランダムに腰をおろしていて、小さなステージはお世辞にも豪華とは
いえないものだった。
けれども、そういう雰囲気すべてが溶けていて、手ざわりがある濃密な
空気に満ちていた。
それが、夜の帳とともにだけ垣間見ることができる世界を包んでいる。
3回目にして、もっとも楽しそうなバーバリアンのライヴのあと
(この夜、もっとも耳目を集めていた、と思う)
彼女がステージに上がってきた。
まあ!私がさっき、カウンターの横ですれ違った女性ではないか!
けれども歌いだすと、やはり彼女はプロシンガーであり、
目を離さずにはいられない濃密な深さがあった。
その声は独特で、歌の中に生き続けて来た人だけが持つ凄みを
放っている。
さっきまでステージにいたドラマーのNさんに訊いてみたら、
すでに40年も歌い続けている人だという。
下北沢のジャニスと、言われてきたとも。
数日後、You Tubeを開けてみたら、Charと歌うシーンに遭遇した。
ビシリと締まっているディーバの風情である。
はたして、あの無番地の夜は、彼女の何千夜目のステージだったのだろうか。
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